大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和61年(特わ)3101号 判決 1987年8月07日

本店所在地

東京都新宿区西新宿六丁目一〇番二八号

株式会社オフィスジャパン

(右代表者代表取締役 齊藤實)

本籍

東京都江戸川区南小岩七丁目一三七八番地

住居

同都世田谷区深沢一丁目七番一五号

会社役員

齊藤實

昭和一三年二月一五日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官井上經敏出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社オフィスジャパンを罰金五八〇〇万円に、被告人齊藤實を懲役一年六月にそれぞれ処する。

被告人齊藤實に対し、この裁判確定の日から四年間、その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社オフィスジャパン(以下「被告会社」という。)は、東京都新宿区西新宿六丁目一〇番二八号(昭和六一年三月一二日以前は、同区西新宿八丁目一九番三号)に本店を置き、不動産の売買等を目的とする資本金四八〇〇万円(同五五年六月一八日から同五八年六月二日までは二四〇〇万円)の株式会社であり、被告人齊藤實(以下「被告人」という。)は、被告会社の代表取締役(昭和五八年五月三〇日までは実質的経営者)として、被告会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空の広告宣伝費を計上するなどの方法により所得を秘匿した上

第一  昭和五六年四月一日から同五七年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が六五〇三万五七一五円で、課税土地譲渡利益金額が一億九八三四万円であった(別紙1修正損益計算書及び別紙4脱税額計算書参照)のにかかわらず、同五七年五月三一日、同新宿区北新宿一丁目一九番三号所轄淀橋税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が零で、課税土地譲渡利益金額が一億七一九万八〇〇〇円であり、これに対する法人税額が二一二四万五六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和六二年押第五六九号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税六五八二万八七〇〇円と右申告税額との差額四四五八万三一〇〇円(別紙4脱税額計算書参照)を免れ

第二  昭和五七年四月一日から同五八年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二億二一八八万四七七五円で、課税土地譲渡利益金額が二億七九一一万二〇〇〇円あった(別紙の修正損益計算書及び別紙5脱税額計算書参照)のにかかわらず、同五八年五月三一日、前記淀橋税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二〇〇八万八五一二円で、課税土地譲渡利益金額が一億四七七七万八〇〇〇円であり、これに対する法人税額が三六八〇万一七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一億四七八二万二八〇〇円と右申告税額との差額一億一一〇二万一一〇〇円(別紙5脱税額計算書参照)を免れ

第三  昭和五八年四月一日から同五九年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が九〇七一万九〇〇五円で、課税土地譲渡利益金額が一億二一二万八〇〇〇円あった(別紙3修正損益計算書及び別紙6脱税額計算書参照)のにかかわらず、同五九年五月三一日、前記淀橋税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一八九八万三五〇三円で、課税土地譲渡利益金額が三〇二三万六〇〇〇円であり、これに対する法人税額が一一八〇万七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額五六三〇万八二〇〇円と右申告税額との差額四四五〇万七五〇〇円(別紙6脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実につき

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書四通

一  西本伸一(三通)及び上原吉山の検察官に対する各供述調書

一  検察事務官作成の昭和六二年四月一三日付捜査報告書

一  検事作成の次の表題の各捜査報告書

1  広告宣伝費

2  受取利息

3  租税公課

4  繰越欠損金控除額

5  事業税認定損

一  収税官吏作成の報告書、土地重課税調査書及び損益調整勘定調査書

一  押収してある被告会社の法人税の確定申告書(昭和五七年三月期ないし同五九年三月期、各一袋)(昭和六二年押第五六九号の1ないし3)及び法人税の修正申告書(同五八年三月期)一袋(同押号の4)

判示第三の事実につき

一  検察事務官作成の昭和六二年七月一五日付捜査報告書

一  収税官吏作成の事業税認定損調査書(補正)及び土地重課税調査書(補正)

(法令の適用)

一  罰条

1  被告会社

判示第一ないし第三の各事実につき、法人税法一六四条一項、一五九条一、二項

2  被告人

判示第一ないし第三の各所為につき、法人税法一五九条一項

二  刑種の選択

被告人につき、いずれも懲役刑を選択

三  併合罪の処理

1  被告会社

刑法四五条前段、四八条二項

2  被告人

刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第二の罪の刑に加重)

四  刑の執行猶予

被告人につき、刑法二五条一項

(量刑の事情)

本件は、不動産の売買等を目的とする被告会社の代表取締役(昭和五八年五月三〇日以前は実質的経営者)である被告人が、被告会社の業態の性質上固定客ということが考えにくいことなどから、利益の一部を裏に回して蓄積して、自社ビルを建てて賃料収入を得ることにより経営を安定させたいなどの動機から敢行した事案であって、そのほ脱税額が三事業年度分の合計で二億一一万円余と高額であるうえ、ほ脱率も三事業年度の平均で約七四パーセントと高率であり、ほ脱の具体的方法も被告会社の専属的な広告代理業者である西本伸一に依頼して被告会社あてに水増し又は架空の広告宣伝費を請求させ、事情を知らない被告会社の従業員をして西本あて右代金を支払わせた後、手数料(水増し又は架空分の金額の約五パーセント又は一〇パーセント)を控除して同人から現金で戻させたうえ、これらが発覚しないように帳簿証憑類を整備させていたものであり、また、受領した裏金は仮名預金として隠匿したり、被告人から被告会社への貸付金として運用するなどしていたものであって、その手口は計画的かつ巧妙・悪質である。加えて、被告人は、本件起訴事業年度前にも同様の水増し又は架空の広告宣伝費の計上をしていた節も窺われること、業務上過失致死罪により禁錮刑(実刑)、宅地建物取引業法違反(誇大広告)の罪により罰金刑四犯の各前科があること等をも併せ考慮すると、被告人の刑事責任は重いといわなければならない。

しかしながら他方、被告会社においては広告宣伝費の水増しないし架空計上をしたものの、他にはことさらな会計処理上の操作を行っていないと認められること、被告会社は昭和五六年三月期から同五九年三月期まで修正申告をしたうえ、本税については完納し(本件審理で明らかになった昭和五九年三月期の増加分についても修正申告のうえ納付予定である。)、延滞税及び重加算税についても分割で完納する予定であること、被告会社としても国税局査察部出身の税理士を顧問税理士とし、経理体制の改善を行ったこと、被告人は、仮名預金及び被告人の被告会社に対する貸付金を被告会社の資産として組み入れたこと、被告人は本件を反省し、今後かかる行為を繰り返さない旨誓っていること、被告人には前記の前科があるけれども、最終の裁判の言渡は昭和四七年であり、本件とは罪質を異にしていることなど、被告人に有利な事情も認められるので、これらを斟酌して、被告人に対しては今回に限り刑の執行を猶予するのが相当であると判断した。

(求刑 被告会社につき罰金六五〇〇万円、被告人につき懲役一年六月)

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 鈴木浩美)

別紙1

修正損益計算書

株式会社オフィスジャパン No.1

自 昭和56年4月1日

至 昭和57年3月31日

<省略>

別紙2

修正損益計算書

株式会社オフィスジャパン No.1

自 昭和57年4月1日

至 昭和58年3月31日

<省略>

別紙3

修正損益計算書

株式会社オフィスジャパン No.1

自 昭和58年4月1日

至 昭和59年3月31日

<省略>

別紙4

脱税額計算書

会社名 株式会社オフィスジャパン

自 昭和56年4月1日

至 昭和57年3月31日

<省略>

別紙5

自 昭和57年4月1日

至 昭和58年3月31日

<省略>

別紙6

自 昭和57年4月1日

至 昭和58年3月31日

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例